天気予報やニュースを見ていると、「今年はエルニーニョ現象の影響が予想されます」といった言葉を耳にすることがあります。
名前はよく知られていますが、「そもそもエルニーニョとは何なのか」と尋ねられると、説明に困る方も多いのではないでしょうか。
台風の名前のようにも聞こえますし、単に海水温が高くなる現象だと思われることもあります。しかし、実際にはもう少し規模が大きく、太平洋の海と大気が互いに影響しながら変化する現象です。
エルニーニョ現象をひと言で表すなら、赤道付近の太平洋中部から東部にかけて海面水温が平年より高くなり、その変化に合わせて大気の流れも変わる現象です。
遠く離れた南米沖の海で起きる変化が、日本の夏や冬、世界各地の雨、農業や漁業にまで関係してきます。そこが、エルニーニョの興味深いところです。
この記事では、エルニーニョという不思議な名前の語源から、海の中で何が起きているのか、日本の天候にどのような傾向が現れるのかまで、専門用語をできるだけかみ砕いて解説します。
この記事の要点
- エルニーニョはスペイン語で「男の子」「幼子」という意味
- 名称はクリスマスごろに現れる南米沖の暖かい海水に由来する
- 海面水温だけでなく、風や雲、気圧も連動して変化する
- 日本では冷夏や暖冬などの傾向があるが、必ずそうなるわけではない
- 反対の状態はラニーニャ現象と呼ばれる

エルニーニョとはスペイン語でどういう意味?
エルニーニョは、スペイン語では「El Niño」と書きます。
「El」は英語の「the」に近い定冠詞で、「Niño」は男の子や幼い男児を表す言葉です。そのため、文字どおりに訳すと「その男の子」「幼子」といった意味になります。
ただし、気象用語として使われるエルニーニョには、単なる「男の子」以上の意味が込められています。
南米のペルーやエクアドル周辺の漁師たちは、毎年クリスマスごろになると、沿岸に暖かい海水が現れることを古くから知っていました。クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝う時期です。
そこで漁師たちは、この暖かい海流を、幼子イエスを意味する呼び名である「エルニーニョ」と呼ぶようになったとされています。NOAAも、南米沖で年末から年初に現れる暖水と、クリスマスの時期が名称の由来になったと説明しています。
日本語では「神の子」「キリストの幼子」と説明されることもあります。ただし、一般的なスペイン語としての「niño」は男の子を表す言葉です。気象用語では、クリスマスとの結びつきから特別な意味を持ったと考えると分かりやすいでしょう。
最初から世界規模の気象現象を指していたわけではない
現在の「エルニーニョ現象」は、赤道付近の太平洋全体に広がる大規模な海洋変動を指します。しかし、もともとの呼び名は、南米沿岸で漁をする人々が気づいた、身近な海の変化を表すものでした。
普段のペルー沖では、海の深いところから冷たく栄養分の多い水が湧き上がります。そのためプランクトンが育ちやすく、魚も集まりやすい海になります。
ところが、海水がいつもより暖かくなると、冷たい水の湧き上がりが弱まり、魚の分布や漁獲にも変化が起こります。漁師にとって海水温の変化は、単なる気温の話ではなく、生活に直結する重要な出来事だったわけです。
海辺の人々が名づけた地域的な現象が、のちに世界の天候と結びつく大規模な現象として理解されるようになった。この歴史も、エルニーニョにまつわる興味深い雑学の一つです。
エルニーニョ現象の意味をひと言で説明すると
気象庁はエルニーニョ現象を、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて、海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象と説明しています。反対に、同じ海域の水温が平年より低い状態が続くものがラニーニャ現象です。
ここで大切なのは、「海の温度が高い」という表現が、単に海水が温かいという意味ではないことです。
赤道付近の太平洋は、もともと海面水温が高い地域です。エルニーニョかどうかを判断するときは、実際の温度そのものではなく、その季節の基準値と比べてどのくらい高いかを見ます。
たとえば、海面水温が27度だったとしても、その地域の同じ月の基準値が28度なら、平年より低い状態です。反対に、26度でも基準値が25度なら、平年より高い状態になります。
したがって、「海面水温が何度になったらエルニーニョ」という単純な決め方ではありません。
気象庁はどのように判定しているのか
気象庁は、赤道付近の北緯5度から南緯5度、西経150度から西経90度までの海域を監視しています。これは南米沖から太平洋中部にかけての細長い範囲です。
この海域の海面水温について、基準値との差を計算し、その5か月移動平均値がプラス0.5度以上の状態で6か月以上続いた場合を、エルニーニョ現象の発生期間としています。マイナス0.5度以下が続けば、ラニーニャ現象です。
「ある月だけ急に水温が上がった」という状態では、エルニーニョと判定されない点が重要です。ある程度の広さを持つ海域で、水温の偏りが数か月にわたって持続しているかを確認します。
ニュースで「エルニーニョのような海水温になった」と報じられても、その時点で正式な発生期間が確定しているとは限りません。
観測値に加えて、風や雲の状態、今後の予測も見ながら、海と大気が本当に連動しているかを判断する必要があるためです。

通常の太平洋では何が起きているのか
エルニーニョの仕組みを理解するには、まず通常の赤道太平洋がどのような状態になっているかを知る必要があります。
赤道付近の太平洋では、普段は東から西へ向かって貿易風が吹いています。南米側からインドネシア側へ向かう風だと考えるとよいでしょう。
この風は、海面近くの暖かい水を西へ押し流します。そのため、インドネシアやフィリピンに近い西太平洋には暖かい海水がたまりやすくなります。
一方、南米沖では、表面の海水が西へ運ばれた分を補うように、海の深い場所から冷たい水が上がってきます。この動きを湧昇と呼びます。
冷たい水には、海底付近から運ばれてきた栄養分が多く含まれます。プランクトンが増え、それを食べる魚が集まるため、ペルー沖は世界有数の漁場として知られてきました。
太平洋の西と東には温度差がある
通常の状態では、太平洋の西側には暖水がたまり、東側には冷たい水が現れます。そのため、赤道太平洋の西と東には大きな水温差ができます。
暖かい海では水蒸気が多く発生し、空気が上昇して積乱雲ができやすくなります。通常は、西太平洋のインドネシア周辺で雲や雨が多くなります。
上空へ昇った空気は東へ流れ、東太平洋付近で下降します。そして地表付近を貿易風として西へ戻ります。
この赤道付近の東西方向の大気循環は、ウォーカー循環と呼ばれます。海水温の差が風を生み、その風が海水温の差を保つという、海と大気の結びつきができています。
海だけが動いているのでも、風だけが変化しているのでもありません。通常の太平洋でも、海と大気は一つの仕組みとして影響し合っています。
エルニーニョが発生すると海と風はどう変わる?
エルニーニョが始まるときには、赤道付近を東から西へ吹いている貿易風が、平年より弱くなります。
暖かい海水を西側へ押しつけていた力が弱くなるため、インドネシア付近にたまっていた暖水が、太平洋の中央部や南米側へ広がりやすくなります。
同時に、南米沖で起きていた冷水の湧昇も弱まります。海の深いところから冷たい水が上がりにくくなるので、東太平洋の海面水温はさらに高くなります。
整理すると、次のような流れです。
- 赤道付近の貿易風が弱まる
- 西太平洋の暖かい海水が中央部や東部へ広がる
- 南米沖の冷水の湧昇が弱くなる
- 太平洋中部から東部の海面水温がさらに上がる
- 積乱雲や雨が多くなる場所も東へ移る
- 大気の流れが変わり、世界各地の天候に影響が広がる
海が暖かくなると、その上で空気が上昇しやすくなります。上昇気流や積乱雲が発生する場所が変われば、周辺の気圧配置や上空の風も変化します。
さらに、変化した大気の流れが貿易風をいっそう弱め、暖水が東へ広がりやすい状態を強めることがあります。海の変化が風を変え、風の変化が再び海を変えるわけです。
このように海と大気が互いの変化を強め合う仕組みは、一般に正のフィードバックと呼ばれます。
エルニーニョは「海水温だけの異常」ではなく、海水温、貿易風、気圧、雲、雨が連動する大規模な現象です。
NOAAも、エルニーニョを海洋と大気の両方に特徴的な変化が現れる、結合した気候現象として説明しています。

ENSOとは何?エルニーニョとの違い
エルニーニョについて調べていると、ENSOという言葉を見かけることがあります。日本語では「エンソ」と読まれます。
ENSOは「El Niño-Southern Oscillation」の略で、日本語ではエルニーニョ・南方振動と呼ばれます。
エルニーニョは、おもに海面水温の変化に注目した呼び名です。一方の南方振動は、太平洋の東側と西側で気圧がシーソーのように変動する、大気側の現象を表します。
南太平洋東部の気圧が平年より低いときには、インドネシア周辺の気圧が高くなりやすく、反対に南太平洋東部の気圧が高いときには、インドネシア周辺の気圧が低くなりやすいという関係があります。
この気圧のシーソーは貿易風の強さと深く関係しています。そこで現在では、海で起きるエルニーニョと、大気で起きる南方振動を、別々の現象ではなく一連の変動として扱います。
南方振動指数はタヒチとダーウィンの気圧差を見る
大気側の変化を確認する代表的な指標が、南方振動指数です。英語の頭文字から「SOI」と呼ばれます。
SOIは、おもに南太平洋のタヒチと、オーストラリア北部のダーウィンの地上気圧の差をもとに計算されます。
日本から見ると、なぜタヒチとダーウィンなのか不思議に思えます。しかし、この二地点の気圧差は、赤道太平洋を吹く貿易風の強さを把握する手がかりになります。
海面水温が高くなっていても、大気の風や気圧がそれに対応していなければ、海と大気が十分に結びついたエルニーニョとは言いにくい場合があります。
気象機関が海面水温だけでなく、貿易風、積乱雲の活動、気圧なども確認するのは、このためです。
エルニーニョ、ラニーニャ、平常の3段階
ENSOには、大きく分けて三つの状態があります。
| 状態 | 赤道太平洋中部・東部の海面水温 | 貿易風の傾向 | 代表的な特徴 |
|---|---|---|---|
| エルニーニョ | 平年より高い | 弱まりやすい | 暖水や活発な対流域が東へ移りやすい |
| 平常 | 基準値に近い | 通常の強さ | 西に暖水、東に冷水という差が保たれる |
| ラニーニャ | 平年より低い | 強まりやすい | 暖水がより西へ集まり、東側の冷水が目立つ |
ラニーニャはスペイン語で「女の子」という意味です。エルニーニョの反対側にある現象として、後から名づけられました。
ただし、エルニーニョが終わると必ずラニーニャになるわけではありません。エルニーニョから平常の状態へ戻る場合もあれば、その後ラニーニャへ移行する場合もあります。
南米沖の海水温がなぜ日本の天候に関係するのか
南米沖と日本は、地図で見ると非常に離れています。それでもエルニーニョが日本の天候に影響するのは、海面水温の変化によって、熱帯の積乱雲が発生する場所が変わるからです。
積乱雲がまとまって発生する地域では、大量の空気が上空へ持ち上げられます。その動きは周辺だけにとどまらず、上空の風や気圧配置を通じて遠くまで伝わります。
池に石を落とすと波紋が広がるように、熱帯で生まれた大気の変化は、離れた地域の高気圧や偏西風の位置にも影響します。
遠く離れた地域どうしの気圧や天候が関連して変化する仕組みは、テレコネクションと呼ばれます。日本語では「遠隔相関」と訳される言葉です。
日本の夏は涼しくなりやすいといわれる理由
エルニーニョが発生すると、西太平洋熱帯域では海面水温が相対的に低くなり、フィリピン周辺などで積乱雲の活動が弱まることがあります。
その影響で、日本の夏を暑くする太平洋高気圧の北への張り出しが弱くなりやすくなります。結果として、日本付近では気温が低めになったり、曇りや雨の日が増えたりする傾向があります。
気象庁が1948年から2021年までのデータをもとに整理した統計では、エルニーニョ発生時の夏は、西日本で平均気温が低い傾向、北日本と東日本では平年並みか低い傾向が示されています。
また、西日本の日本海側では降水量が多く、北日本の日本海側では日照時間が少なくなる傾向があります。
日本の冬は暖かくなりやすいといわれる理由
冬には、西高東低の気圧配置や寒気の南下の仕方が平年と変わり、日本付近へ強い寒気が流れ込みにくくなる場合があります。
そのため、エルニーニョの冬は暖冬になりやすいと説明されることがあります。
気象庁の統計では、西日本の冬の平均気温が平年並みか高くなりやすい傾向が確認されています。一方、東日本の太平洋側や沖縄・奄美では、降水量が多くなる傾向もあります。
ただし、日本全国が一様に暖かくなるとは限りません。同じ冬の中でも、強い寒気が一時的に南下し、大雪や厳しい冷え込みになることはあります。

「エルニーニョなら必ず冷夏・暖冬」は間違い
エルニーニョを理解するとき、最も注意したいのが「傾向」と「確定」を混同しないことです。
エルニーニョが発生しても、日本が必ず冷夏や暖冬になるわけではありません。
気象庁が示す特徴は、過去のエルニーニョ発生年を集めたときに、特定の天候が通常より現れやすかったという統計的な傾向です。
実際の天候には、エルニーニョ以外にもさまざまな要因が関係します。
- 偏西風の位置や蛇行
- 北極周辺の寒気の動き
- インド洋の海面水温
- 日本近海の海面水温
- 台風や低気圧の進路
- 数週間から数か月単位で変化する熱帯の大気活動
- 長期的な地球温暖化による気温上昇
こうした要因が重なるため、同じエルニーニョの年でも、毎回まったく同じ天候にはなりません。
WMOも、一つ一つのエルニーニョは発達の仕方、海面水温の分布、各地への影響が異なると説明しています。また、現象の強さと、ある地域で起きる影響の大きさが単純に比例するわけでもありません。
季節予報と週間天気予報は役割が違う
エルニーニョ情報は、明日の雨や来週の気温を直接当てるためのものではありません。数か月先の季節全体を見たときに、どのような天候になりやすいかを考える材料です。
たとえば「暖冬の傾向」と発表されても、毎日暖かいわけではありません。3か月全体の平均気温が平年より高くても、その途中に強い寒波が来ることはあります。
毎日の服装や外出予定には短期予報を使い、農作業、商品の仕入れ、電力需要、防災計画などには季節予報も参考にする。このように情報を使い分けることが大切です。
世界ではどのような影響が現れるのか
エルニーニョは、世界のすべての地域を同じように暑くしたり、雨を増やしたりする現象ではありません。
ある地域では雨が多くなる一方、別の地域では乾燥しやすくなります。影響が強く出る季節も地域ごとに異なります。
WMOによると、典型的には南米の一部、東アフリカ、米国南部などで雨が増えやすく、オーストラリア、インドネシア、アジア南部やアフリカ南部の一部では乾燥しやすくなる傾向があります。
雨が増える地域では、洪水や地滑りの危険が高まる場合があります。反対に、雨が少なくなる地域では、干ばつ、水不足、森林火災、農作物の不作などが問題になります。
海の変化は漁業にも影響します。南米沖で冷たい栄養豊富な水の湧昇が弱くなれば、プランクトンや魚の分布が変わることがあります。
農業や漁業の生産量が変わると、穀物、魚介類、飼料などの国際価格に影響が及ぶ可能性もあります。日本で直接雨不足が起きていなくても、輸入品の価格を通じて暮らしに関係することがあるわけです。
エルニーニョは地球全体を暖めるのか
エルニーニョの時期には、海に蓄えられていた熱が大気へ放出されやすくなるため、世界の平均気温を一時的に押し上げる傾向があります。
ただし、エルニーニョと地球温暖化は同じ現象ではありません。
エルニーニョは数年おきに発生する自然の変動です。一方、現在進んでいる地球温暖化は、おもに人間活動によって増えた温室効果ガスにより、長期的に気温が上昇する現象です。
たとえるなら、地球温暖化は長い上り坂で、エルニーニョはその上を走る波のようなものです。波によって一時的に気温上昇が強まる年もあれば、ラニーニャによって少し抑えられる年もあります。しかし、長期的な上昇傾向そのものが消えるわけではありません。
WMOは、気候変動がエルニーニョの発生頻度や強さを増していると断定できる証拠はない一方、海と大気がすでに暖かくなっているため、熱波や大雨などの影響を増幅する可能性があるとしています。
知っておきたいエルニーニョの雑学
雑学1:数年おきに起きるが、決まった周期ではない
エルニーニョは数年おきに発生します。一般には2年から7年程度の間隔と説明されますが、時計やカレンダーのように決まった周期で起きるわけではありません。
連続して起きることもあれば、長い間発生しないこともあります。強さや持続期間も毎回異なります。
雑学2:通常は秋から冬にかけて発達しやすい
エルニーニョは、春から夏にかけて発生し、秋から冬に強まり、翌年の春ごろに弱まる例が多く見られます。
英語では、ENSOの予測が春に難しくなりやすい現象を「spring predictability barrier」と表現することがあります。春の時点では海と大気の小さな変化が、その後どちらへ進むのか予測しにくいためです。
予測技術は進歩していますが、半年以上先のエルニーニョを完全に予測できるわけではありません。
雑学3:「スーパーエルニーニョ」は正式な統一用語ではない
非常に強いエルニーニョについて、報道などで「スーパーエルニーニョ」という表現が使われることがあります。
分かりやすい言葉ではありますが、WMOは「スーパーエルニーニョ」を標準化された運用上の分類としては使用していません。公式情報では、弱い、中程度、強い、非常に強いといった表現が使われます。
強い表現を見かけたときは、名称だけで判断せず、どの海域の水温がどの程度高いのか、気象機関がどのような見通しを示しているのかを確認するとよいでしょう。
雑学4:海面水温が高い場所は毎回同じではない
エルニーニョには、南米沿岸に近い東太平洋で水温上昇が目立つ場合と、日付変更線付近の中央太平洋で目立つ場合があります。
暖水の中心がどこにあるかによって、積乱雲の発生場所や大気の流れも変わるため、日本や世界各地への影響にも違いが生じます。
「前回のエルニーニョではこうなったから、今回も同じ」とは限らない理由の一つです。
雑学5:漁師の経験と近代科学が結びついた現象
南米沿岸の漁師は、近代的な人工衛星や海洋観測装置が登場するはるか前から、海の色、水温、魚の種類、漁獲量の変化を経験的に知っていました。
一方、20世紀になると、太平洋東西の気圧がシーソーのように変化する南方振動の研究が進みました。
その後、海面水温の変化と気圧・風の変化が同じ大規模現象の一部であることが分かり、現在のENSOという理解につながりました。
地域の漁師が観察していた海の異変と、世界規模の気圧データが結びついたところに、気象学の面白さがあります。
エルニーニョに関するよくある誤解
誤解1:赤道付近の海全体が熱くなる
エルニーニョでは、赤道太平洋中部から東部の海面水温が平年より高くなります。しかし、太平洋全体が一様に高温になるわけではありません。
西太平洋では平年より水温が低めになることもあり、海面だけでなく海中の暖水層の厚さも場所によって変わります。
誤解2:異常気象はすべてエルニーニョが原因
猛暑、大雨、暖冬などが起きると、エルニーニョだけが原因として語られることがあります。しかし、実際の天候は複数の要因が重なって生まれます。
エルニーニョは有力な背景要因の一つですが、一つの大雨や一度の熱波を、エルニーニョだけで説明できるとは限りません。
誤解3:エルニーニョなら台風が必ず増える
エルニーニョは熱帯の風や積乱雲の位置を変えるため、台風の発生場所や進路、発達のしやすさに影響することがあります。
しかし、日本へ接近する台風の数が必ず増える、あるいは必ず減るとは単純にいえません。台風は発生数だけでなく、発生する海域、上空の風、太平洋高気圧の位置などにも左右されます。
誤解4:エルニーニョが強ければ日本への影響も強い
赤道太平洋の水温上昇が大きくても、日本付近の天候への影響がそのまま大きくなるとは限りません。
暖水の位置、発生する季節、インド洋や北極周辺の状態などによって、大気の反応が変わるからです。
現象の強さは重要な判断材料ですが、それだけで日本の天候を決めつけないことが大切です。
2026年のエルニーニョはどうなっている?
2026年7月10日発表の気象庁情報
気象庁は、2026年春からエルニーニョ現象が続いているとみられ、同年秋にかけて続く見込みを100%と発表しました。2026年6月の監視海域の海面水温は、基準値より1.9度高い状態でした。
ただし、同じ発表の中で、2026年6月の日本の天候には、エルニーニョ発生時の特徴が明瞭には現れなかったと説明されています。
これは、「エルニーニョが発生していること」と、「日本で典型的な天候が現れること」が同じではない例といえるでしょう。
エルニーニョの監視情報は、海と大気の状態を示します。一方、日本でこれから暑くなるのか、雨が多くなるのかを知るには、最新の1か月予報や3か月予報も合わせて確認する必要があります。
なお、発生状況や見通しは毎月更新されます。この記事を後日読む場合は、気象庁の「エルニーニョ監視速報」で最新情報を確認してください。

エルニーニョ情報を暮らしにどう生かすか
エルニーニョを知ったからといって、すぐに特別な行動を取る必要があるとは限りません。しかし、季節全体のリスクを早めに考える材料としては役立ちます。
農業や園芸では長期的な傾向を見る
夏の日照不足や長雨が予想されると、作物の生育や病害の発生に影響することがあります。反対に、地域によっては高温や少雨への備えが必要です。
エルニーニョという名称だけで判断せず、地域別の季節予報、降水量予報、日照時間の見通しを確認することが大切です。
仕事では需要の変化を考える
気温や雨の傾向は、衣料品、飲料、暖房器具、レジャー、観光、電力などの需要に関係します。
暖冬傾向が予想される場合でも、寒波がなくなるわけではありません。在庫や人員配置を考えるときは、一つの予測に頼らず複数のケースを想定するのが現実的です。
防災では「平均」より極端な現象にも注意する
季節平均の気温が高い、低いという情報だけでなく、大雨、干ばつ、熱波などの発生可能性にも目を向ける必要があります。
世界ではエルニーニョに伴って雨の偏りが大きくなる地域があります。旅行や海外出張、海外との取引がある方は、現地の気象機関や公的機関の情報も確認すると安心です。
エルニーニョについてよくある質問
Q1.エルニーニョは何語ですか?
スペイン語です。「El」は定冠詞、「Niño」は男の子や幼子を意味します。南米沖でクリスマスごろに現れる暖かい海水にちなみ、幼子イエスを表す意味で使われたとされています。
Q2.エルニーニョはどこで起きますか?
おもな舞台は、赤道付近の太平洋中部から東部です。気象庁の説明では、日付変更線付近から南米沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年より高くなります。
Q3.エルニーニョは何年ごとに起きますか?
一般には2年から7年程度の間隔で発生しますが、決まった周期ではありません。発生間隔、強さ、続く期間は毎回異なります。
Q4.エルニーニョはどのくらい続きますか?
気象庁は、海面水温が高い状態が1年程度続く現象と説明しています。多くは春から夏に発生し、冬にかけて発達した後、翌年の春ごろに弱まりますが、例外もあります。
Q5.エルニーニョになると日本は必ず冷夏ですか?
必ず冷夏になるわけではありません。過去の統計では、西日本で夏の気温が低くなりやすいなどの傾向がありますが、ほかの海洋・大気現象の影響によって猛暑になる可能性もあります。
Q6.エルニーニョとラニーニャは何が違いますか?
赤道太平洋中部から東部の海面水温が平年より高い状態がエルニーニョ、低い状態がラニーニャです。エルニーニョでは貿易風が弱まりやすく、ラニーニャでは強まりやすいという違いもあります。
Q7.エルニーニョと地球温暖化は同じですか?
同じではありません。エルニーニョは数年単位で変動する自然現象です。地球温暖化は温室効果ガスの増加などによる長期的な気温上昇です。ただし、両者が重なると高温などの影響が強まる場合があります。
Q8.発生しているかどうかはどこで確認できますか?
日本では、気象庁が毎月発表する「エルニーニョ監視速報」で確認できます。海面水温の実況、貿易風や積乱雲の状態、数か月先の発生確率などが掲載されています。
まとめ:エルニーニョは海と大気が連動する地球規模の現象
エルニーニョは、スペイン語で「男の子」「幼子」を意味する言葉です。南米沖でクリスマスごろに現れる暖かい海水を、現地の漁師が幼子イエスにちなんで呼んだことが名称の由来とされています。
現在の気象用語としては、赤道付近の太平洋中部から東部にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が長く続く現象を指します。
通常は東から西へ吹く貿易風が弱まり、西太平洋にたまっていた暖かい海水が東へ広がります。南米沖では冷たい水の湧昇が弱まり、積乱雲や雨が多い場所も移動します。
その結果、上空の風や気圧配置が変わり、日本を含む世界各地の気温や降水量に影響が広がります。
日本では、夏の気温が低めになる、冬の気温が高めになるといった傾向があります。ただし、これは過去の統計から見た傾向であり、毎回同じ天候になるわけではありません。
エルニーニョ情報は「天気を決める答え」ではなく、数か月先の天候を考えるための重要な手がかりです。
遠い南米沖の海の変化が、風と雲を通じて日本の空へつながっている。そう考えると、天気予報で聞くエルニーニョという言葉も、これまでより身近に感じられるのではないでしょうか。

