職場のベトナム人女性を「〇〇さん」のように呼びたいときは、自分より少し年上ならchị(チ)+個人名、同世代で自分より年下ならem(エム)+個人名が基本の目安になります。
ただし、日本語の「さん」を女性全員に共通する一語へ置き換えることはできません。
呼称と個人名を一組にして、「私からはこの呼び方でよいですか」と本人に確かめると、職場で使う形を決めやすくなります。
côやbàには世代・役割・改まった呼び方などの用法があるため、見た目だけで年齢の区分へ当てはめないことが大切です。
ここでは、日本の職場で同僚や先輩へ声をかける場面を扱います。
Lan(ラン)・Mai(マイ)などの名前は説明用の例です。
カタカナは読み始める目安で、声調を含む発音の代わりにはなりません。
女性への「さん」は、名前の前に置く呼称から考える
日本語の「田中さん」は、相手が年上でも年下でも広く使えます。
ベトナム語では、姉・弟妹・おば・祖母などを表す言葉が、家族以外への呼びかけにも使われます。
その人が何歳かだけでなく、話し手から見た関係を表すところが違います。
| 呼称 | カタカナの入口 | 主な意味・関係の目安 |
|---|---|---|
| chị | チ | 姉。自分より少し年上の女性など |
| em | エム | 弟・妹。自分より少し年下の人など。女性専用ではない |
| cô | コー | 父の妹。親世代の女性、女性教師、Missに近い用法など |
| bà | バー | 祖母。祖母世代の女性、改まったMadamに近い用法など |
この表は、20代ならem、40代ならcôという年齢表ではありません。
同じ40歳の女性でも、話し手が25歳か45歳かで関係は変わります。
さらに教師や上司なら役割・立場も関わるため、「相手の年齢だけを当てれば正解が出る」と考えると使いにくくなります。
基本の語順は呼称+呼びかけに使う個人名です。
年上のLanさんならchị Lan、関係に合う年下のMaiさんならem Maiとなります。
日本語の「ランさん」をそのまま後ろ付けにして、Lan chịと覚える形ではありません。

chịとemは、年上・年下の関係を示す
少し年上の女性を呼ぶchị Lan
chịは本来「姉」を表し、血縁のない女性にも使います。
chị Lanは、日本語の「ランさん」に近い働きをする場面がありますが、「女性用のさん」という固定した接尾語ではありません。
自分に対する年上側の女性という関係を含みます。
たとえば、話し手が30歳、Lanさんが35歳という職場の説明例なら、chị Lanが候補になります。
ただし、この5歳差を呼称の公式な境界にするわけではありません。
本人がどの呼び方を使い、その職場でどの関係として話しているかまで合わせます。
同僚がchị Lanと呼んでいるのを聞いた場合も、そのまま自分の呼び方にはできません。
その同僚はLanさんより年下で、自分は年上かもしれないからです。
「皆さんはどう呼んでいますか」に続けて、「私からもchị Lanでよいですか」と聞くと、自分との関係を確かめられます。
同世代で少し年下の相手を呼ぶem Mai
emは弟・妹に由来し、男女のどちらにも使われます。
この記事では女性を扱いますが、emを女性だけの敬称として覚えないようにします。
年下のMaiさんにem Maiと声をかけるのは、単に乱暴な呼び捨てへ置き換えることではなく、年上側から見た関係を示す形です。
一方、年下の相手なら立場を問わずemでよい、とまでは言えません。
自分より若い管理職や取引先などは、職場での役割や本人の希望も関わります。
日本語の上下関係を一語ずつ翻訳するより、その場で定着している呼称を先に確かめます。
同年代で年齢が分からない相手も、外見から年上・年下を決める必要はありません。
日本語で「ランさん」と呼ぶ職場なら、ひとまずその形を使い、ベトナム語で話すときの呼び方を聞くことができます。
年齢を詳しく聞き出すこと自体を目的にしないほうが、必要な確認へ進めます。
chị・emは、会話の中では「私」にも「あなた」にもなる
chịやemが分かりにくくなるのは、名前の前に付く場面だけではありません。
年下の人が年上女性をchịと呼ぶ関係では、その年下の人が自分をemと表すことがあります。
年上女性は、自分自身をchịと表すこともあります。
たとえば、年下の同僚が年上女性へ挨拶する教材の形「Em chào chị!」では、emが話し手側、chịが相手側を指します。
ここで二人の女性を順番に呼んでいるわけではありません。
同じ語でも、誰が誰へ話しているかによって指す人を読む必要があります。
年上の人が誰でも自分をchịにする、という規則でもありません。
chịには女性の年上側という意味があるからです。
最初は自分まで同じ呼称にそろえようとせず、相手を呼ぶ形を覚え、文全体を使うときに自分をどう表すかも教えてもらうと混乱を減らせます。

cô・bàは、年齢だけでchịの次へ並べない
côには親族・世代の関係と女性教師の用法がある
côは親族名称では父の妹に当たり、家族以外では親世代に近い女性などへの呼称にも使われます。
大学の教材には、Missに近い呼び方と女性教師の用法も載っています。
「中年の女性」という一つの意味だけにまとめると、教室などでの使い方が分からなくなります。
自分が30代、相手が35歳くらいの同僚という例では、数歳年上という理由だけでcôへ進めません。
chịが合う関係か、本人が別の呼称を使うかを確かめる場面です。
親世代に見える場合も、見た目だけでcôと決めないようにします。
女性の先生をcôと呼ぶ場面では、年齢差だけでなく教師という役割が関わります。
若い女性教師だからemへ変える、と単純には扱えません。
名前を合わせるならcô Hoaのような形が候補ですが、実際の教室での呼び方を優先します。
bàには祖母に由来する用法と改まった呼び方がある
bàは「祖母」を表し、祖母世代に近い年長女性などへの呼称にもなります。
一方、Northern Illinois Universityの教材ではMadamに相当する改まった呼称としても紹介されています。
bàという語が出ただけで、必ず相手を祖母扱いしていると読むわけではありません。
だからといって、職場のかなり年上の女性へ、丁寧にしようと突然bà+名前で呼び始めるのも適切とは限りません。
自分より20歳・30歳上という差だけでは、使う場面や関係までは決まらないためです。
改まった文書と、同僚へ日常的に声をかける場面も分けて考えます。
親世代などに関わる呼称にはbác(バック)等もあり、chị・cô・bàだけで全員を三段階に分類する仕組みではありません。
地域や関係による違いもあるため、初心者は呼称の一覧を増やす前に、目の前の相手に合う一組を確かめるほうが実用的です。

名前のどこを使う?姓ではなく本人が使う個人名を確かめる
ベトナム語の人名には、姓、ミドルネームに当たる部分、個人名という順序が見られます。
説明用にNguyễn Thị Lanを分けるなら、Nguyễnが姓、Thịが中間部分、Lanが個人名です。
日常の呼びかけでは、姓ではなく個人名がよく使われます。
この例ではchị Lanという形を考えられます。
日本語の姓+さんに引かれて、名簿の先頭だけを取り「グエンさん」に相当する形を作るより、本人がLanを呼び名にしているかを先に尋ねます。
日本語で本人が「グエンさん」を希望しているなら、それまで否定する必要はありません。
すべての名前を「最後の一語だけが呼び名」と機械的に切り取らないでください。
複数音節の個人名や複合姓もあり、名簿の区切りだけで本人が使う形まで確定できません。
英字がすべて大文字、記号が省略されているといった会社の登録形式も、普段の呼び方とは別です。
尋ねるなら、「普段、何という名前で呼ばれていますか」「私からはLanさんと呼んでよいですか」と、使う文字列を見せます。
名前が似た同僚もいる場合は、その職場でどこまで含めて呼び分けているかも聞くと、相手を取り違えにくくなります。
呼びかけ・挨拶・お礼で、語の位置を変えて使う
以下は、自分より少し年上の女性で、本人とchị Lanという呼び方を確かめた場合の例です。
どの場面にも同じ文を付けるのではなく、注意を向けてもらうのか、挨拶か、お礼かで使い分けます。
| 場面 | 例 | カタカナの目安 |
|---|---|---|
| ランさん、と呼びかける | Chị Lan ơi! | チ・ラン・オーイ |
| ランさん、こんにちは | Chào chị Lan. | チャオ・チ・ラン |
| ランさん、ありがとう | Cảm ơn chị Lan. | カム・オン・チ・ラン |

ơiは相手へ呼びかけるために使う
ơiは、名前や呼称などに添えて相手の注意を向ける呼びかけの要素です。
Chị Lan ơi!なら「ランさん!」という場面に使えます。
呼称+個人名+ơiという順にすると、誰に声をかけているかを示せます。
関係に合う年下のMaiさんならEm Mai ơi!、名前を言わずにChị ơi!やEm ơi!と呼ぶ形もあります。
ただし、同じ場所に何人もいると誰を呼んでいるか分かりにくくなるため、職場では確かめた名前を合わせると伝えやすくなります。
ơiは、日本語の「様」のように敬意を上乗せする語ではありません。
côかchịかが合っていない状態を、ơiを付けるだけで解決するものでもありません。
相手を選ぶ呼称と、相手へ声をかける働きを分けて覚えます。
挨拶やお礼は、呼び名を文の中へ入れる
Chào chị Lan.では、挨拶のchàoに、相手を表すchị Lanを続けています。
声をかけて気付いてもらうChị Lan ơi!と、挨拶を伝える文では語の役割が違います。
名前の後へ必ずơiを付ける規則ではありません。
Cảm ơn chị Lan.は、相手を示してお礼を伝える例です。
chị Lanの部分は同じでも、場面に合わせて挨拶・お礼を言い分けられます。
長い仕事の依頼文を作る前に、自分が実際によく使う短い一言を選ぶと練習しやすくなります。
教材には年齢・立場によって丁寧さを添えるạなどもありますが、一語足せばどんな相手にも完成するというものではありません。
上司への依頼や正式なメールまで作る場合は、呼称だけでなく文全体を職場の担当者や話者に見てもらうと、目的に合う表現を選べます。

初対面でも、呼び名を決めて使うまで進める
年齢が分からないと、何も話しかけられないわけではありません。
必要なのは外見で年齢を当てることではなく、自分から使う名前と呼称を相手と合わせることです。
周囲の呼び方は手掛かりにしつつ、最後は自分との関係で確かめます。
- 本人が名乗った呼び名、または普段使う名前を聞きます。
名簿しかなければ「どの部分でお呼びすればよいですか」と尋ねます。 - 日本語で話せるなら「ベトナム語では、私から何と呼べばよいですか」と聞きます。
chị Lanが候補なら、その文字列を見せて確かめます。 - 本人に一度発音してもらい、自分でも短く言って、名前や呼称を取り違えていないか教えてもらいます。
- 呼称+名前を、声調・母音の記号を含むつづりでメモします。
「職場で私から呼ぶ形」など、使う関係も一緒に残します。 - 次の挨拶や呼びかけで使います。
修正を教えてもらったらメモも直し、以後はその形へ合わせます。
初対面で日本語が通じにくい場合は、名前の文字を見せ、社内の通訳やベトナム語が分かる担当者へ「私からの自然な呼び方を教えてほしい」と頼めます。
本人の年齢や家族の事情を詳しく集める必要はありません。
聞き取れない名前を推測して呼び続けるより、短く確かめるほうが会話を始めやすくなります。
上司・管理職・取引先では、年齢に加えて役職や改まった場面の慣習も関わります。
「年下だからem」「女性の上司だから必ずchị」と一律にせず、本人と職場で定着した形を優先します。
周囲と年齢関係が違うときは、同じ呼称を使ってよいかも添えて尋ねます。
日本の会社で全員が「ランさん」と呼び、本人もそれを希望しているなら、日常の業務を無理にベトナム式へ変える必要はありません。
挨拶だけベトナム語で使いたい、会話全体を学びたいなど、自分の目的に合わせて教えてもらえます。
間違えたときは、長い説明より呼び方を直す
違う呼称を使ってしまったら、日本語で伝える場合は「呼び方を間違えました。
教えてくださってありがとうございます」と短く伝え、次から直します。
「年上に見えたから」「教科書にはこうあった」と説明を重ねると、呼び名を直す話から離れてしまいます。
教えてもらった形を復唱し、メモを更新すれば次の会話へつなげられます。
相手が希望する呼び名を、別の人にも同じように当てはめないことも大切です。

カタカナだけにせず、正式な文字と本人の音を一緒に覚える
ベトナム語は声調を使う言語です。
Michigan State Universityの教材では6つの声調と、それを示す5種類の記号、記号を付けない声調を説明しています。
チ・コー・バーという日本語の読みだけでは、母音や声の高低などを十分に表せません。
文字の記号も、全部が声調記号ではありません。
chịの下の点、bàのアクセントは声調に関わり、côのôやơiのơは母音の区別に関わります。
chi・co・ba・oiへ一括して記号を落とすと、元の語の情報が失われます。
côにはôがあっても声調記号はなく、長い「コー」と読めば発音が完成するわけではありません。
名前についても、会社のシステムが記号なしの大文字で表示することと、本人が普段書くベトナム語のつづりは分けます。
可能なら本人の表記をそのままメモへ写し、目の前で発音してもらって確かめます。
録音を残したい場合は、先に本人の了承を得てください。
発音練習では、一度に長い文へ進むより、呼称と名前を続けた短い形を覚えます。
地域で発音や一部の呼称が違うこともあるため、学習用の音と本人の音が違っても、すぐにどちらかが間違いと決めません。
仕事で話す相手に合わせた呼び方を覚えることが、今回の目的です。

「様」の一語訳を探すより、相手と場面に合う表現を選ぶ
日本語の「さん」より丁寧にしたいから、chịの上位版を一語探す、という方法では呼称を選びきれません。
bàなどの改まった用法も、日常の職場で誰にでも付けられる「様」ではないためです。
ベトナム語の丁寧さには、相手との関係、役職、話す目的、文全体の表現が関わります。
対面の挨拶と、社外への正式な依頼メールでは求められる形も違います。
重要な文書なら、宛名・呼称・依頼文を一緒に担当者や翻訳者へ確認し、単語だけを差し替えないようにします。
まとめ|呼称と個人名を一組にして、相手ごとに覚える
少し年上の女性へchị+個人名、同世代で年下ならem+個人名が基本の目安ですが、女性全員に共通する「さん」の一語訳ではありません。
cô・bàは世代や役割・場面を含み、見た目の年齢だけで選ばないようにします。
本人が使う個人名と、自分からの呼称を確かめ、記号を含むつづりと音を一緒に覚えます。
教えてもらった一組を次の挨拶で使うところから始めれば、呼称表の丸暗記だけで終わらず、目の前の人へ自然に声をかける準備ができます。
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参考資料
資料確認日:2026年10月31日。
カタカナは発音の目安です。
- Michigan State University「Vietnamese Alphabet」 — ô・ơなどの文字と母音の区別。
- Michigan State University「Unit 1 Culture Notes」 — 人間関係・立場を示す呼称、教室のcô・em、挨拶の形。
- Northern Illinois University「Lesson 1 Grammar」 — chị・em・cô・bà、個人名の前へ置く語順、一人称にもなる用法。
- Michigan State University「Unit 6 Culture Notes」 — cô・bácなどの親族名称と地域による違い。
- Michigan State University「Tone and Tone Marks」 — 声調と記号、正式な文字を残す理由。
- Tue Trinh(2024)「Forms of address, performative prefixes, and the syntax-pragmatics interface」 — 4.3節のơiによる呼びかけ。

